不動産投資家は「宅建」資格を取得すべきでしょうか?
結論から言えば、賃貸収入を目的とする不動産投資家は宅建士の資格は必要ありません。
宅建士を必要とするのは、「不動産取引業」であり、「不動産賃貸業」である不動産投資家(大家さん)には実務上必要ありません。
しかし、私が講師を務める宅建士講座では、「大家さん」が受講されるケースが多く、年配の方も熱心に勉強され合格されていきます。
なぜ大家さん達は、実務で必須とされていない「宅建士」資格を目指し、時間を費やし学ぶのでしょうか?
今回は、不動産投資家が宅建士を取得すべき理由について執筆します。
1.宅建士試験の特徴
「宅建」、「宅建士」の正式名称は「宅地建物取引士」です。
毎年20万以上が受験する人気国家資格で、毎年10月第3日曜日に資格試験が実施されます。(今年は10/17 13-15時)
合格率は約15%、近年15%~17%に上がり、約3,5000人が合格します。
つまり、約20万人中、17万近くが落ちる厳しい試験です。
国家資格の中でも、宅建人気が高い理由は、誰でもチャレンジできるところです。
受験申込期間は、毎年7月で受験費用は7,000円と、他の資格試験と比べてリーズナブル。
しかし、それゆえ気軽に申込みしたものの勉強不足により受験辞退者が非常に多い特徴もあります。
毎年約25万人が申込みをしており、そのうち受験者は約20万人。毎年約5万人が辞退してしまうのです。
7,000円 × 50,000人 = 350,000,000円
辞退者だけでも、3億5千万円・・・大金が動きますね。
2.宅建士とは
宅建(宅地建物取引士)とは、不動産取引に関する法律の専門家です。宅地や建物の取引を円滑に行うための資格制度です。
不動産売買など不動産取引に関するトラブルは全国で起きています。
不動産の法律の専門家である宅建士は不動産業界において重要な役割を担います。
なぜ宅建士に需要があるかというと、必置資格であり、かつ独占業務があるからです。
宅建業者(不動産取引会社)は、主に不動産の売買や賃貸の仲介等を行います。
下記3項目は、宅建士の「独占業務」のため、宅建士の資格取得者以外は行うことができません。
宅建士の独占業務
- 重要事項説明書(35条)の説明
- 重要事項説明書(35条)への記名・押印
- 契約書(37条)への記名・押印
不動産取引では、大きなお金が動くため、契約に先立ち重要事項説明書にて、物件のに関する事項、手付金やキャンセルなどの取引条件に関する事項などが細かく記載された書類にて説明する義務を負います。
重要事項説明の際は宅地建物取引証を提示する義務があります。
重要事項説明書には、宅建士による記名、押印が必要です。
さらに契約後、遅滞なく契約書を交付する義務があります。
契約書へは、宅建士による記名、押印が必要です。
また、宅建業者では従業員5人につき、1人以上の成年の専任宅建士を設置する義務があります。
例えば、従業員が19人の宅建業者の場合、4人の宅建士が必要です。
退職などで、宅建士が欠ける場合は、決められた期間内に補充しなければなりません。
このように必ず設置しなければならない資格を必置資格といいます。
不動産取引を行う宅建業者では、必置資格であり独占業務を担う宅建士は重宝されます。
従業員に宅建士資格を取得させるため、多額の資金を投入し、宅建士講座を依頼する宅建業者さんも多く、そのような会社に入社される人は思いきり勉強ができて恵まれてるなぁと感じます。(本気度が高いため、合格率も高い)
3.宅建士試験の範囲
宅建士試験の範囲は、5つの分野があります。
- 権利関係
民法、借地借家法、不動産登記法、建物区分所有法 - 宅建業法
宅建業法、住宅瑕疵担保履行法 - 法令上の制限
都市計画法、建築基準法、国土利用計画法、農地法、土地区画整理法など - 税・価格
所得税、印紙税、不動産取得税、固定資産税、不動産鑑定評価基準など - 免除科目
住宅金融支援法、景品表示法、土地、建物、統計
出題範囲が膨大であることが、宅建士試験受験者を悩ます要因の一つです。
バランスよく効率よく、試験で問われるポイントを学ぶことがポイントです。
不動産会社で働く場合は重要な「宅建」ですが、不動産投資家、大家にとってメリットはあるのでしょうか。
この宅建士を持っていることで役立つことは何でしょうか。
4.宅建士を取得する3つのメリット
不動産取引の仕事をする者にとって、宅建士が大事な資格であることはわかりました。
ここからは不動産賃貸業を行う不動産投資家、大家が宅建士であるメリットをご紹介します。
メリット①:法令知識が身につく!
重要事項説明に詳しくなり有利な交渉ができる
不動産投資ローンなど融資を受ける際、金融機関の担当者に融資を受けるべき優良物件であることをアピールしますよね。
宅建士資格者の場合、法規制を遵守してると判断され説得力があります。
不動産の法規制の知識に長けた宅建士という立場で自らが売買を行う場合、売主さん、買主さんとの交渉が有利に働く可能性があります。
特に値下げ交渉では、宅建士試験分野の法令上の制限に強くなることで、違法建築や再建築不可など、物件のデメリットを指摘する力が付きます。
また、宅建士は常に法律の改正点を意識するので、改正によりデメリットとなる問題点にに気づき、見送るべきか購入すべきか的確な判断ができるようになります。
法令上の制限、特に建築基準法の日影規制、高度規制、用途地域、道路に関する決まりなど、規制に違反していないか十分注意しましょう。
また権利関係では、抵当権、契約不適合責任、借地借家法などが重要です。
不動産購入を際には広告を見ますが、細かい部分や専門用語は分かりにくいですよね。
不動産には複雑に法律が関わっています。
宅建士の勉強をすることで、豊富な知識により物件仕入が有利になりそうですね。
一方、不動産投資の実務に関連する内容は薄いです。
宅建士は、大家さんのための資格ではありません。
宅建業者を取り締まる規制である宅建業法が大きなウェイトを占め、投資に関する知識は範囲外です。
宅建取得により直接的なメリットは感じにくいかもしれません。
しかし、将来的には賃貸業だけでなく、短期売買を繰返し、キャピタルゲインを狙いたい方はやはり宅建を取っておくと良いでしょう。
メリット②:信用性が上がる
不動産投資をする中で、取引相手、金融機関との間で何より大切なのが信頼関係です。
宅建士有資格者は不動産の知識があると周囲に安心感を与えます。
法律の専門家である宅建士が違法行為はしないと信頼されます。
不動産取引では、詐欺や違法行為も多く危うい話も転がっていますが、法律に詳しい専門家を騙すとは考えにくいですよね。
私の場合は、不動産に関する危うい話から身を守るという目的で宅建士資格取得を志しました。
不動産投資家にとって、宅建の勉強よりも不動産投資にまつわ関するセミナーに参加したり物件の下見に行って勉強をした方がよいという意見もあります。
確かに実践的な経験は良いでしょう。
しかし、不動産の法律の基礎を知らずに参加すると旨い話に騙されてしまう危険があります。不動産業界は想像するよりも闇が深いのです。
自分の力で不動産の評価や売買条件を判断することができると強いですよね。
効率よく宅建士資格勉強をすることで知識が身に付き、不動産投資にメリットとなることが期待できますね。
メリット③:将来、不動産取引業を開業する可能性が広がる
宅建業免許を取得、いつか不動産会社を開業したい!と思うなら宅建士資格は必要です。
宅建士の資格が無い場合は、他の宅建士を雇わなければなりません。
不動産会社を開業すると、物件探しや物件売買を自らできるようになります。
物件売買に関する仲介手数料がなくなるだけでなく、他の投資家の売買を仲介すると仲介手数料を得ることもできます。
「いつか開業するため、いつか宅建士取得しよう」では、いざという時に時間や体力が不足するかもしれません。
将来の活躍の場を広げるために、早い段階で宅建士を取得しておいて損はありません。
「宅建士」の試験合格は一生有効です。
宅建士登録するかどうかは必要になった時に決めれば良いのです。
まとめ
不動産投資家、大家が宅建士資格を取得すべきメリット
- 不動産の法律知識を活用し、重要事項説明書の内容に詳しくなり有利な取引ができる
- 取引相手への信用度が上がる
- 不動産取引業を開業する可能性が広がる
宅建を持っているだけで社会的信頼性が上がり、キャリアアップに役立つことは間違いありません。
しかし、合格率15%~17%のため、勉強したからといって誰もが合格できるわけではありません。
宅建士資格取得のための目安学習時間は約300時間です。
週末大家さんは、お勤め先での本業、不動産投資の副業に加えて宅建の勉強に300時間を充てるのは簡単ではないと思います。
今後「宅建士の法知識を身につけたい!」という方に普段宅建士講座で行っている講義内容もこのブログで投稿していこうと思います。
もちろん無料なので、本格的に勉強を始める前に参考にして頂ければと思います!
一緒に不動産の法律知識を深めていきましょう!
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