令和2年4月1日より「改正民法」が施行されました。
昨年6月の公布されましたが、120年ぶりの大改正でどうなるのか?
不動産投資、賃貸経営されるオーナーさんは不安もありますよね。
不動産投資をする上で法律をしっかりと理解する事は重要です。
新民法では、「契約不適合責任」「保証人の極度額」など新たな制度ができたため、契約書の見直しなど売主、賃貸人が注意しなければならないことが多々あります。
不動産オーナーが注意すべき改正部分について確認しましょう。
1.不動産売買における3つの改正点
まずは、不動産の「売買」から見ていきましょう。
ざっくり説明すると、下記3点が主な改正点になります。
- 「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」への名称変更
※売買契約書の記載変更が必要な場合があります - 買主の知っていた傷等についても売主へ責任追求可能
※売主・買主の知っていた・知らなかったに関係なく責任発生 - 売主への修補責任追求・代金減額請求を新設
※売主の責任範囲拡大、買主の選択幅拡大
結論を言ってしまえば、今回の民法改正の重要点は、
「売主の責任範囲の拡大」です。
不動産投資家であるオーナー様は売主・買主どちらになる場合もあります。
このあと説明する契約不適合責任での免責のために不可欠となる売買契約書の内容を今一度、しっかりと確認し、必要に応じて変更しましょう!
改正民法は、【オーナーが売主となり所有物件を譲渡する場合】に不利な内容です。
それでは、改正点を一つずつ見ていきましょう。
1-1.瑕疵担保責任→契約不適合責任へ
今まで不動産取引では、「瑕疵」という言葉が度々登場し不動産契約書に等に記載されました。
この「瑕疵」とは、欠陥や欠点、傷などことで、売買契約の目的物が通常有すべき品質・性能を欠くことをいいます。
今までの瑕疵担保責任とは、買主が通常の注意を払ったにも関わらず発見できなかった「隠れた瑕疵」が対象でした。買主が引き渡し後に気付いた欠陥のみ売主が損害賠償などの補償を行いました。
今回の改正民法では、契約不適合責任では、「隠れた瑕疵」に限定されません。
隠れていたかは問わず、契約書に免責条項として書かれていたがどうかが重要です。
瑕疵担保責任から契約不適合責任へと名称が変わり、契約内容と異なるものを売却したときに売主に債務不履行の責任義務が生じます。(契約書の内容が重要!)
契約不適合責任とは・・・買主から売主に対して、目的物の欠陥に係る責任追及(担保責任)
- 民法- 売買の契約不適合責任(私人間)
- 民法- 請負の契約不適合責任 (業者間)
- 宅建業法- 契約不適合責任(自ら売主責任)(宅建業者VS一般人)
契約不適合責任とは、目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことをいいます。
契約内容に適合するか否かが論点となる為、契約書の記載内容がとても重要になります!!
反対に言えば、契約書にあらかじめわかっている瑕疵を記載し、免責事項とすれば、契約不適合責任を問われることはありません。
損傷や雨漏りなどあらかじめ買主に説明し、契約不適合責任が免責を了承済みの部分はきちんと契約書に記載すれば良いのです。
逆に買主となる場合は、契約書の内容に明記され、免責事項となっていない問題が見つかった際は、泣き寝入りすることなく、売主への責任追及が可能です。
契約不適合責任 免責とする特約事項を決定するにあたり、売り主は免責内容(欠陥部分)の洗い出しが必要です。
契約不適合責任の問題になりそうな欠陥部分を一つずつ洗い出すには、手間がかかるので、売主にとって今回の民法改正は不利な内容といえるでしょう。
売主が引渡した目的物が契約内容に適合するかどうかが論点
⇒ 契約書の内容の見直し、説明がとても重要
⇒ 但し「特約」があれば、免責となる!欠陥があっても責任追及できない
なぜなら・・・「法律」よりも「契約」が優先されるから(契約自由の原則)
※不動産業の免許を持つ業者が売主で、買主が一般の個人の場合、売主は契約不適合責任は免責にできません。不動産業者が売主となる場合は、宅建業法40条の強行規定を順守しなければなりません。
1-2.瑕疵について悪意(知っていた)の買主も補償される
従来の民法で、瑕疵担保責任を追求できるのは、瑕疵について「善意」の買主に限定されていました。
(※「善意」とは知らないこと、「悪意」とは知っていることをいいます。)
また、「隠れた瑕疵」でなければ、責任追及されませんでした。
瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 | |
要件 | 隠れたる瑕疵 | 契約内容に適合しない |
性質 | 法定責任 | 契約責任 |
買主の権利 | ・契約解除 ・損害賠償請求 |
・追完請求 ・代金減額 ・損害賠償請求 ・催告解除 ・無催告解除 |
損害保険 | 信頼利益 | 信頼利益+履行利益 |
隠れた瑕疵とは、売買契約時に、買主が気付かなかった欠陥でなければなりません。
元々、雨漏りや損傷などの欠陥を知っていながら購入した買主を保護する必要がないからです。
しかし、今回の改正民法では、
こちらも売主にとって不利な内容ですね。
売買契約時に、たとえ、買主が欠陥に気付いていたとしても、売り主がその説明を怠り契約書に免責事項として契約書に記載していなければ契約不適合責任が生じます。
契約不適合の例
1-3.買主の4つの権利- 追完請求権・代金減額請求権の新設
従来の瑕疵担保責任で買主が請求できる権利は、「損害賠償請求」と「解除」でした。
瑕疵担保責任が生じる場合とは、売り主が約束通りの引渡しを行っていない、引渡し債務の履行がなされていない状態です。すなわち債務不履行による損害賠償請求が可能となります。
また、瑕疵により目的を達成できない場合に限り、解除ができます。
改正民法では、契約不適合の場合、上記2つに加え、新たに2つの請求権が加わりました。
「追完請求」とは、「種類」「品質」「数量」が契約に適合しない場合、「修補」「代替物の提供」「不足分の提供」を請求できる権利です。
「修補」とは修理、代替物の提供は交換のことです。
損害賠償により金銭請求を行い、自分で修理業者に依頼しなくても、売主に修理や代替手配を任せることができるのです。
さらに、修理が出来ない場合は、「代金減額請求」ができます。
代金減額請求も新しい権利、
「傷がある分、安くして下さい」「まけてくれよ!」と言えるのです。
※ただし、原則としてあらかじめ追完請求の催告を行うことが必要です。
履行不能(修理や代替物の提供が絶対ムリ)、売り主が追完を拒む意思を計画に表示している、特定日時に履行されなければ目的が達成できない、という場合は、催告なしに代金減額請求が可能です。
買主の権利が拡充されたことは、売主にとって不利ですね。
契約不適合責任を追及するためにいづれの請求を行うかは、買主が選択します。
ただし、売り主は、買主の負担にならない程度であれば、買主が指定した方法と異なる方法に変更できます。
1-4.不動産売買における契約不適合責任は「契約書」で免責にできる!?
これらの契約不適合責任にまつわる内容は「任意規定」です。
任意規定とは、契約当事者が合意すればその特約は有効であるという規定です。
つまり、個人が売主の場合は、「特約」として「免責事項」を設けることができます。
契約書に免責事項を特約として記入し、契約不適合責任を免責にしてしまうことが可能です!
従来の瑕疵担保責任でも免責事項は可能でしたが、新民法では「全部免責」ができなくなりました。
「全部、責任を負いません」との記載はできず、免責事項を一つずつ記載しなければなりません。
「シロアリについては、不適合責任は負いません」
「耐震問題については、不適合責任対象外です」
など、免責時効にしたい内容を記載漏れがないよう厳重に確認が必要です!
契約書の記載内容の充実度が今回の新民法の「契約不適合責任」の影響から身を護る手段になりそうですね。
契約書はこう書こう! →契約不適合責任 免責
売買契約書には、ひな形があり定型的な条項がありますが、物件の条件に合わせて容認事項や特約を記載することができます。
契約不適合責任では、目的物が何であり、どのようなものか、そして特約・容認事項の欄に免責とすべき詳細を契約書にしっかりと記載する必要があります。
後に契約不適合として問題になりそうな事は、契約書に「容認事項」として書き出し、不動産の現状と契約書の内容が適合するようにしましょう!
容認事項の例文買主は、〇〇の容認事項を確認・承諾の上、購入するものであり、〇〇について売主に対し、修補、代金減額請求、解除、損害賠償等の法的請求を一切求めないものとする。
- 本物件の西側には金属工場があるため、騒音、臭気等が発生する場合があります。
- 本物件は昭和56年5月以前に建築確認を取得し旧耐震基準時の建物であり、現在の耐震基準を満たしておりません。
2.不動産賃貸における3つの改正点
つづいて、不動産の「賃貸」についての改正点です。
賃貸経営を行うオーナーさんには直接関わることですので、必ず確認しておきましょう!
下記3点が主な改正点になります。
- 連帯保証人の責任範囲
極度額を定めない保証契約は無効 - 敷金返還に関する規定の明文化
退去後に返還しなければならない - 原状回復に関する規定の明文化
経年劣化による修復は貸主負担
こちらも結論から言うと、改正民法は貸主であるオーナーにとって不利な内容です。
一つずつ見ていきましょう。
2-1.連帯保証人の責任範囲
不動産を賃貸する際に、賃借人がきちんと賃料を払ってくれるか不安ですよね。
その際に、リスクヘッジとして保証人をたてます。
入居者が亡くなった場合にも、保証債務は消滅せず、保証人には支払い義務が残ります。
改正民法では、保証人の責任が重くなりすぎないよう保護規定が設けられmさいた。
「極度額(上限)を定めない保証契約は無効」となります。
つまり、保証する範囲の金額を事前に決める必要があります。
従来の保証契約では、通常極度額を定めません。無制限に賃借人の債務を保証人に請求できました。
オーナーである賃貸人は、契約時の保証契約について注意して手続きしなければなりません。
貸主にとっては、賃借人の不払い時の取り立てについて不利な内容ですね。
※責任範囲が定められているのは、個人である連帯保証人のみです。個人ではない保証会社は対象外。
今後は、個人よりも保証会社をたてる方法を検討しましょう!
2-2.敷金返還に関する規定の明文化
敷金・保証金など名目を問わず、賃料等の担保として契約時に受け取った金銭は、賃貸借契約が終了し、賃貸物の返還を受けた際に返還しなければなりません。
基本的に敷金は賃料不払い等差し引く債務がない限り全額返還です。
退去時のハウスクリーニング代はどうなるのでしょうか。
・・・差し引くことはできません。
2-3.原状回復に関する規定の明文化
不動産賃貸借契約で最も問題になるのが、退去時の原状回復責任についてです。
壁の汚れ、床のへこみ、傷、変色などなど。
賃借人に帰責事由がある場合でも、近年、賃貸人が「経年劣化」として修繕する傾向にあります。
トラブル回避のため、多少入居者に使用方法が悪くても違約金を差し引かず、敷金を返す場合が多いようです。
改正民法では、原状回復についてはっきりと明文化されました。
賃借人の故意・過失による損傷でない限り、大家さんが経年劣化の原状回復義務を負わなければなりません。
3.まとめ
不動産「売買」「賃貸」に係る民法改正点を紹介しましたが、いかがでしたか?
- 新民法では、瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わり、買主の請求できる権利が拡充しました。
- 「追完請求(修補責任)」「代金減額請求」という新しい方法が増えました。
- 賃借人が賃料を払わない場合、従来は無制限に保証人に請求できましたが、新法では個人の保証人には極度額を定めなければ無効となります。
賃貸借に係る債権についての改正点も、賃貸人であるオーナーさんにとっては厳しい内容ですね。
不動産オーナーは法律知識を身につけ、入居者とのトラブルを避け、健全な運営をする事が大切です。
特にご自身が売主となる場合は、契約書に契約不適合責任 免責事項を洗い出し特約として記載できるかどうかが重要です。
中堅会社でも法律に疎い会社は多々ありますので、仲介を依頼する際は安易に不動産業者を選ばないよう注意しましょう。
不動産会社で勤務していた私は、宅建業法でさえ遵守せずに契約書を作っている現場を見てきました。
今回の民法改正により、仲介会社へ売主さん、買主さん、オーナーさんから「契約不適合責任」「契約書の見直し」に関する問合わせが入った場合に、営業マンが的確な対応ができる能力を持ち合わせているのか非常に心配です。
自分の身は自分で守れるよう、最低限の法知識を持ちましょう。
今回紹介した契約不適合責任など重要改正点以外にも、不動産売買・賃貸借に関する改正が多数あります。
今後も不動産取引に関係が深い法改正点を紹介していこうと思います!
不動産取引や民法、宅建業法についてご不明点があれば、お気軽にお問い合わせください。
答えられる範囲で回答致します。(難しい場合は、不動産協会に問合わせて回答します)
また、契約書の作り替えについて、詳しい内容を知りたい場合は法律に強い不動産会社をご紹介します。
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